崩壊しつつある地球の生態系
気候変動や地球温暖化という言葉が使われ始めて40年近く経過しました。この間、世界中の科学者が警告を鳴らし続けてきました。ですが人類は目先の利益獲得や短期的な問題に追われて、この極めて重要な問題を先延ばしにしてきました。そのツケがいよいよ回ってきたように感じています。
最近、温暖化のもたらす破局的な破壊力の片鱗が見え隠れしています。これまで、人類は、自らの幸福だけに注力して生態系への配慮を怠ってきました。自然への影響を見過ごした、あるいは周囲の変化に気づかなかったのだと言えます。それでも、自分達の周辺に存在する、身近な生き物に対しては、一部の人の献身的努力により、保護活動が行われ、絶滅の危機が救われたような事例は存在します。そのような活動も今や限界に来ているようです。対処療法的な処置では到底救えないような時期に差し掛かっているのです。人類の文明を起因とするとても大きな生態系へのインパクトが、地球環境そのものを揺さぶっています。今や地球全体のエコシステムの均衡が崩れようとしています。
地球の生態系バランスが崩壊すると、どんな破局が訪れるのか。多くの科学者がシミュレーションしていますが、正確な予想は誰もできません。しかし、近年世界各地で生じている災害の大きさを見れば、破局の恐ろしさを感じます。残念ながら、これまで生じてきた災害規模は、これから訪れるであろう災害規模に比べると、まだ可愛いものだと言えるでしょう。生態系バランスがもたらす破局はこの程度では済みません。今でも既に目を覆うばかりの被害が生じていますが、さらに酷くなる事が十分に予想できます。
もはや一刻の猶予もありません。我々は、今すぐ行動を起こす必要があります。
気候変動におけるティッピングポイント
ティッピングポイントとは、物事がある一定の閾値を超えると急速に広まっていく、その時点のことを言います。転換点とか臨界点といっても良いでしょう。気候変動に関しても重大なティッピングポイントがあるのではないか、と言われています。地球温暖化が進み、平均気温がある値を超えると、地球環境に対して不可逆的で重大な影響、環境の激変をもたらすのではないか、と危惧されています。
その具体的な環境の激変として想定されていることは次のような現象です。
グリーンランドの氷床の融解
グリーンランドの氷床の厚さは平均、約1700メートルで、地球上の淡水の約11%を占めています。このグリーンランド氷床が急速に溶けています。1990年代と比べて7倍程度だそうです。平均気温の上昇(1℃ー4℃)により1000年程度の長期間をかけて、氷床が完全に消失する可能性があります。それにより、海面水位が最大7メートル上昇すると予測されています。
氷床が溶けているとしても、その勢いを止めることができるのなら救いはありますが、気温上昇が止まったとしても、氷床の融解を止められないとしたら、もはや取り返しがつきません。ティッピングポイントの恐ろしいところは、不可逆的で元に戻せない、という点です。だからこそ、転換点を超える前に気温上昇をストップする必要があります。
南極の氷床の融解
南極氷床の厚さは平均で約2000メートルで、地球上の淡水の約88%を占めています。2017年7月、厚さ300メートルの南極半島のラーセンC棚氷が崩壊しました。これにより、氷河が海に流れ出し、海水の塩分濃度の低下と海面上昇が危惧されています。今後も平均気温が上昇し続けると棚氷の崩壊が進み、さらなる影響が出てくるでしょう。
永久凍土の融解
永久凍土は北半球の陸地の約4分の1を覆っています。平均気温が上昇すると、永久凍土が融解し、そこに閉じ込められていた有機物が分解されて、CO2とメタンが大気中に放出されます。これがさらに温暖化を加速させることになります。温暖化の加速はさらなる永久凍土の融解を招くこととなり、この悪循環が加速します。そうなると、もはや温暖化の勢いを止めることが不可能になります。
珊瑚礁の白化
珊瑚礁には様々な生物が生息しており、生物多様性を保持する上でも重要です。近年、温暖化により、海水温が上昇し、珊瑚礁の白化が各地で観測されています。IPCCの報告書は平均気温が2℃上昇すると、世界中の珊瑚が死滅すると警告しています。もし珊瑚礁が死滅したら、海洋生物の生態系が崩壊し、多様性が失われるでしょう。
海洋の酸性化
海にCO2が吸収されることにより、海洋の酸性化が進んでいます。この状況が続くと2050年には海洋の酸性度が150%上昇するという予測があります。このスピードは過去2千万年間の自然変動の100倍の速度なので、生物は適応できないのではないか、と考えられています。これにより、漁業資源は壊滅的な影響を及ぼすことになるでしょう。将来、魚介類を食べることができなくなるかもしれません。なお、海洋に溶けたCO2は除去できないので、海洋の酸性化を元に戻すことはできません。
上記のような現象は相互に影響しあうので、さらに深刻度が増すことになります。どれも恐ろしい現象ですが、これらが同時多発的に生じ、加速したらどうなるでしょうか。もはや人類になす術はなく、ただ地球環境の崩壊を呆然と眺めているしかありません。その間も異常気象はますます激しくなり、災害は激甚化し、被害は急増するでしょう。各地で暴動が生じたり、紛争が多発するかもしれません。果たして人類は今の文明的な社会生活を維持できるでしょうか。
上記の転換点がいつ生じるのか、すでに転換点を超えてしまったのか、それともまだ猶予があるのか、誰もわかりません。しかし、それがわかった時はすでに手遅れです。誰の目にも明らかだとわかるような、そのような現象が生じてから対策を取っても間に合いません。ティッピングポイントを超えてしまったら元には戻せないのです。
2015年パリ協定に合意し、世界が脱炭素へと進みつつありますが、いまだに「温暖化は自然現象であって人類の活動とは関係ない」といった無責任で何の根拠もない思想を唱道する身勝手な人間がいるのは残念です。気候変動や温暖化に関しては、90年代以降20年近く、専門家の間で徹底的に議論され、今やほぼ全ての科学者が人類の活動によって生じている現象であることが合意されています。結論はとっくに出ています。だからこそ、政治家の間でもパリ協定が合意できたのです。「人類の活動が温暖化の原因である」という事実が誰の目にも明らかになる時は、ティッピングポイントを超えた時です。その時には地球の生態系が破壊され、気候変動が破局的な影響を人間社会にもたらしている時であり、人類の文明が崩壊しつつある時です。もはやこのような不毛な議論をしている場合ではありません。いますぐ行動を起こす必要があるのです。